
法律上の善意と悪意:探偵と盗聴
法律の世界では「善意」と「悪意」という言葉が、私たちの日常で使われる意味とは大きく異なる特別な意味を持つことをご存知でしょうか。よく耳にする「善意」は親切心や思いやりのある行動を、「悪意」は他人を害する気持ちや行為を指しますが、法律の世界ではそうではありません。
法律上の「善意」「悪意」は、ある事実について知っているか知らないか、つまり認識の有無だけに着目した概念です。ある事実を知らなければ「善意」、知っていれば「悪意」と判断されます。これは道徳的な善悪とは全く関係なく、あくまでも事実認識の有無という客観的な基準に基づいて判断されます。
例えば、盗まれた物だと知らずに買ったとしましょう。この場合、購入者は「盗まれた物」という事実を知らなかったため、法律上は「善意の取得者」とみなされます。反対に、盗まれた物だと知っていて買った場合には、「悪意の取得者」となります。このように、善意か悪意かは、その後の法的効果に大きな違いを生みます。善意の取得者は、一定の条件を満たせばその物の所有権を取得できる可能性がありますが、悪意の取得者は、たとえお金を払っていても所有権を得ることはできません。
また、「知らなかった」と主張する場合でも、社会通念上、当然知っているべきだった事実を知らなかった場合には「悪意」とみなされることがあります。例えば、あまりにも安い値段で売られていた場合、何か裏があるのではないかと疑うのが当然だと考えられます。このような場合、たとえ実際に知らなかったとしても、法律上は「知っている」とみなされ、悪意と判断される可能性があります。つまり、単に「知らなかった」と主張するだけでは不十分で、社会通念上、知っているべきだったかどうかという観点も重要になるのです。