
親の懲戒権:どこまで許される?
子を育てる親には、子を教え導き、社会に馴染めるようにする責務があります。この責務を果たすため、親には一定の範囲で子を懲らしめる権利が認められており、これを懲戒権と言います。これは、親が子の成長を支え、健全な人格形成を促す責任を負っていることの裏返しでもあります。法律上も、親権者や未成年後見人は、子の監護教育のため、必要な範囲内で子を懲らしめることができると明記されています。
しかし、この「必要な範囲内」という言葉が、非常にあいまいで解釈の幅が広いことが問題となっています。体罰を加えることや、長時間にわたって叱り続けること、食事を与えないことなど、どこまでが懲戒の範囲内であり、どこからが虐待となるのか、その境界線は常に議論の的となっています。法律には体罰を禁じる旨が明記されているものの、具体的にどのような行為が体罰にあたるのか明確な基準が設けられていないため、個々のケースで判断が分かれることも少なくありません。
例えば、軽くお尻を叩くことは懲戒とみなされることもありますが、一方で、日常的に暴力を振るったり、暴言を浴びせたりすることは、明らかに虐待にあたります。また、子どもの年齢や発達段階、懲戒の程度や頻度、その後のケアの有無など、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。この曖昧さが、親の不安や混乱を招き、行き過ぎた懲戒につながる可能性も懸念されています。そのため、社会全体で子どもの権利を守り、健やかな成長を支えるために、懲戒と虐待の境界線について、より具体的な基準を設けること、保護者への適切な指導や支援体制の構築などが求められています。