法律 訴訟と当事者の関係:処分権主義
民事裁判の世界では、「処分権主義」と呼ばれる大切な考え方があります。これは、裁判の進め方を当事者自身が決めるという原則です。当事者とは、揉め事の当事者である原告と被告のことを指します。具体的には、裁判を起こすか起こさないか、何を争うか、そして、いつ裁判を終わらせるかといったことを当事者が自由に決めることができます。裁判所は、当事者からの訴え、つまり、裁判を起こしてほしいという申立てがなければ、自分から勝手に裁判を始めることはできません。例え、明らかに誰かが悪いことをしていたとしても、被害を受けた人が裁判を起こさない限り、裁判所は何もできません。また、裁判の途中で当事者が和解して、もう裁判を続けたくないとなった場合、当事者は訴えを取り下げることができます。すると、裁判所は裁判を終わらせなければなりません。たとえ、判決を出す直前だったとしても、当事者が訴えを取り下げれば、裁判はそこで終わります。さらに、裁判所は、当事者が主張した範囲のことだけを判断します。当事者が「あれも悪い、これも悪い」と主張しなければ、裁判所はそれらについて判断することはできません。例えば、交通事故で怪我をした人が、治療費と慰謝料を請求したとします。もし、その人が車の修理費用を請求しなかった場合、裁判所は修理費用について判断することはできません。たとえ、車が壊れていたことが明らかだったとしてもです。なぜこのような原則があるのでしょうか。それは、民事上の権利や義務は、当事者自身の意思で自由に決められるべきだという考え方があるからです。これを「私的自治の原則」と言います。処分権主義は、この私的自治の原則を裁判の手続きにも当てはめたものと言えます。当事者同士の話し合いで解決できる問題は、なるべく裁判ではなく話し合いで解決してもらう方が良い、というのが処分権主義の根底にある考え方です。例えば、隣の家との境界線のことで揉めていたとします。境界線をめぐって裁判を起こしたとしても、当事者同士が話し合って解決できれば、裁判を続ける必要はありません。処分権主義は、このような当事者による自主的な解決を後押しする役割も担っているのです。
