
安全配慮義務:雇用者の責任
人が人と関わり合う社会において、互いを思いやり、危険から守ることは当然の務めです。これを安全配慮義務と言い、雇用関係のように、ある特定の人間関係において、特に重要視されます。これは、書面で取り交わした契約書に明記されていなくとも、社会全体の認識として、当然に守るべき義務とされています。会社と従業員の関係で言えば、会社は従業員が安心して働けるよう、安全な職場環境を整備する義務があります。危険を伴う作業を従業員にさせる場合には、適切な指示や指導を行い、安全な用具や装備を支給するなど、安全確保のために必要な措置を講じなければなりません。
例えば、建設現場で働く従業員に、安全帯を支給せずに高所作業をさせることは、安全配慮義務違反にあたります。また、真夏の炎天下で長時間屋外作業をさせる場合、休憩時間を適切に設けたり、水分補給を促したりするなどの対策を怠ることも、安全配慮義務違反となる可能性があります。従業員が精神的な負担を抱えている場合も同様です。過度な残業や、同僚からの嫌がらせなどによって、従業員の心身に不調が生じた場合、会社は状況を改善する義務があります。
この安全配慮義務の根拠となるのが、民法の信義則です。信義則とは、社会における誠実さや道徳に基づき、互いに正直で誠実な行動をとるべきだという原則です。安全配慮義務は、雇用関係に限らず、公務員と市民、教師と生徒、医師と患者など、様々な人間関係において適用されます。社会全体が安心して暮らせるよう、一人ひとりが互いを尊重し、安全に配慮する意識を持つことが大切です。