訴訟物:裁判で争う権利

調査や法律を知りたい
先生、『訴訟物』ってよくわからないのですが、簡単に説明してもらえますか?

調査・法律研究家
そうですね。訴訟物とは、裁判で争っている権利のことです。たとえば、あなたが誰かに自転車を盗まれたとします。裁判であなたが『自転車を返してほしい!』と主張する場合、この『自転車を返す権利』が訴訟物になります。

調査や法律を知りたい
なるほど。つまり、裁判で何が問題になっているのか、ということですね。お金を貸したのに返してもらえない場合はどうなりますか?

調査・法律研究家
その場合、訴訟物は『お金を返してもらう権利』になります。裁判では、あなたが本当にその権利を持っているのかどうかが審理されるのです。
訴訟物とは。
裁判で何が争われているのか、つまり、裁判を起こした人が何を求めているのかのことを「訴訟物」といいます。例えば、自分の土地を不当に占拠されている人が、その土地を返してほしいと裁判を起こした場合、土地の返還を求める権利が「訴訟物」となります。裁判では、この権利が認められるかどうかが審理されます。
訴訟物の定義

裁判では、当事者間で何が争われているのかを明確にする必要があります。これを「訴訟物」といいます。訴訟物とは、原告が被告に対してどのような権利を主張し、裁判所にどのような判断を求めているのかを具体的に示したものです。 原告が訴えを起こすということは、何かしら相手に求めるものがあるということです。この「相手に求めるもの」こそが訴訟物であり、裁判所はこの訴訟物に基づいて審理を行い、最終的に判決を下します。
例えば、金銭の貸し借りが原因でトラブルになったとしましょう。お金を貸した人が、借りた人に対して返済を求めて裁判を起こすとします。この場合、お金を貸した人が裁判所に求めているのは、お金を返済してもらう権利の確認と、実際に返済を受けることです。したがって、この場合の訴訟物は「お金の返済請求権」となります。
また、隣の家との境界線をめぐる争いでも考えてみましょう。自分の土地の範囲が正しく認められず、隣の家が不当に土地を使用していると主張する場合、裁判所に求めるのは、自分の土地の範囲を確定してもらうことです。このケースでは、「土地の境界確定請求権」が訴訟物となります。
訴訟物は、裁判の対象となる権利そのものを指し、単なる事実関係や証拠とは区別されます。例えば、境界線の争いで、過去の測量記録や近隣住民の証言は、土地の範囲を確定するための証拠にはなりますが、訴訟物そのものではありません。訴訟物はあくまでも原告が主張する権利であり、裁判所は証拠に基づいてその権利が認められるかどうかを判断するのです。このように、訴訟物を正しく理解することは、裁判の目的と範囲を明確にする上で非常に重要です。
| ケース | 原告の主張 | 裁判所に求めること | 訴訟物 |
|---|---|---|---|
| 金銭貸借 | お金を返済してほしい | 返済権利の確認と返済の実行 | お金の返済請求権 |
| 境界線争い | 土地の範囲を正しく認めてほしい | 土地の範囲の確定 | 土地の境界確定請求権 |
訴訟物の種類

訴訟物とは、裁判で権利義務関係の有無や内容を争う対象のことを指します。具体的には、どのような権利が主張され、どのような義務の履行を求めているのかという点が争点となります。訴訟物には様々な種類があり、大きく分けて金銭支払いを求める場合、物の権利に関する場合、身分関係に関する場合などに分類できます。
まず、金銭支払いを求める場合は、一般に金銭の支払いを請求する権利、すなわち請求権が訴訟物となります。例えば、お金を貸したのに返してもらえない場合、貸したお金を返してもらう権利、つまり返還請求権が訴訟物となります。また、売買契約に基づいて商品を納入したにもかかわらず代金が支払われない場合、代金の支払いを求める権利である売買代金請求権が訴訟物となります。
次に、物の権利に関する訴訟では、その物の権利自体が訴訟物となります。例えば、土地や建物の所有権をめぐって争いが生じた場合、所有権が訴訟物となります。また、マンションの共有部分の使用について争いがある場合、共有物を使用する権利である共有物使用権が訴訟物となります。
身分関係に関する訴訟も存在します。典型的な例としては、離婚訴訟が挙げられます。この場合、婚姻関係を解消する権利である離婚請求権が訴訟物となります。また、親子関係不存在確認訴訟では、親子関係を解消する権利が訴訟物となります。
さらに、名誉毀損で訴える場合、不法行為に基づく損害賠償請求権が訴訟物となります。名誉毀損によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料請求権も含まれます。加えて、謝罪広告の掲載を求める場合、謝罪広告掲載請求権も訴訟物となります。このように、訴訟物は個々の事件によって様々であり、法律で定められた権利の場合もあれば、契約によって生じた権利の場合もあります。
| 訴訟の種類 | 訴訟物 | 具体例 |
|---|---|---|
| 金銭支払いを求める場合 | 請求権 |
|
| 物の権利に関する訴訟 | 物の権利 |
|
| 身分関係に関する訴訟 | 身分関係上の権利 |
|
| 名誉毀損 | 損害賠償請求権、謝罪広告掲載請求権 |
|
訴訟物と証拠の違い

裁判で何が争われているのかを正しく理解することは、訴訟を始めるにあたって大変重要なことです。この争点となる権利や法的関係そのものを「訴訟物」といいます。一方、「証拠」とは、この訴訟物の存在や内容を証明するための資料のことを指します。訴訟物と証拠は全く異なるものなので、混同しないように注意が必要です。
例えば、お金の貸し借りに関するトラブルで裁判を起こすとします。このとき、「貸したお金を返してほしい」という権利、これが訴訟物です。専門的には「返還請求権」と呼ばれます。そして、このお金を実際に貸したということを証明するために、借用書、振込記録、証人の証言などを裁判所に提出します。これらの資料が証拠にあたります。
土地の所有権をめぐる争いでも同じです。この場合、「自分は確かにこの土地の所有者だ」という権利が訴訟物です。そして、登記簿謄本や売買契約書などが、その権利を裏付ける証拠となります。
このように、証拠は訴訟物を支える土台のような役割を果たします。裁判所は、提出された証拠を一つ一つ丁寧に調べ、その内容に基づいて訴訟物の正当性を判断します。そのため、訴訟物をしっかりと定めることは、どのような証拠を集め、提出すべきかを考える上で非常に大切です。訴訟物が間違っていると、どんなに有力な証拠を集めても意味がありません。まるで、家を建てる際に土台作りを疎かにするようなものです。しっかりとした土台の上に家を建てるように、訴訟物を明確にした上で証拠を集め、裁判に臨むことが重要です。
| 訴訟物 | 証拠 | 例 |
|---|---|---|
| お金を返してほしいという権利(返還請求権) | 借用書、振込記録、証人の証言など | お金の貸し借りに関するトラブル |
| 自分がこの土地の所有者だ、という権利 | 登記簿謄本、売買契約書など | 土地の所有権をめぐる争い |
訴訟物の特定の重要性

裁判で何を争うのかをきちんと定めることは、裁判を滞りなく進める上でとても大切です。これを「訴訟物」と言いますが、もし訴訟物がぼやけていると、裁判所は一体何を判断すれば良いのか分からなくなってしまいます。そうなると、審理が長引いたり、判決の内容が当事者が望んでいたものとは違うものになってしまう恐れがあります。
裁判を始める時点で、何を争うのかを明らかにしておくことで、裁判の範囲がはっきりし、無駄なく審理を進めることができます。これは、ちょうど地図で目的地を定めるようなものです。目的地がはっきりしていれば、迷わずたどり着けるのと同じように、訴訟物がきちんと定まっていれば、裁判もスムーズに進みます。
また、被告にとって訴訟物が明確であることは、適切な反論の準備をする上で欠かせません。訴えられている内容が分からなければ、反論のしようもありません。訴訟物がきちんと示されることで、被告は自分の立場をしっかりと主張し、公正な裁判を受けることができます。
原告は訴状の中で、何を請求するのかを具体的に書き記す必要があります。例えば、お金の支払いを求めるのか、土地の明け渡しを求めるのか、などを明確にする必要があります。そして、被告は答弁書の中で、原告の請求に対する自分の考えを述べます。原告が請求を認めるのか、それとも争うのかを明らかにすることで、裁判の枠組みが定まります。このように、原告と被告がそれぞれ訴状と答弁書で訴訟物に対する立場を明確にすることで、裁判の土台がしっかりと固められます。訴訟物を特定することは、裁判の最初の、そして最も重要な一歩と言えるでしょう。

訴訟物と判決の関係

裁判では、当事者間で争われている具体的な権利や法的関係のことを訴訟物といいます。訴訟物は、裁判の審理範囲を決める重要な要素であり、最終的な判決内容にも直接影響を及ぼします。 裁判所は、この訴訟物に基づいてのみ審理を行い、判決を下すのです。
例えば、AさんがBさんに対して土地の所有権を主張する訴訟を起こした場合、この訴訟の訴訟物は「AさんがBさんに対して持っていると主張する土地の所有権」となります。裁判所は、Aさんが本当にその土地の所有権を持っているのか、Bさんの反論を踏まえて証拠を調べ、法律を適用して判断します。もし、Aさんの所有権が認められれば、「Aさんは当該土地の所有者である」という判決が言い渡されます。これが認容判決です。逆に、Aさんの主張が認められなければ、「Aさんの請求を棄却する」という判決が言い渡されます。これが棄却判決です。 いずれの場合も、判決は訴訟物である土地の所有権についてのみ判断が示されるのです。
裁判所は、訴訟物以外の事柄について判断することはできません。例えば、上記の場合で、Aさんが土地の所有権に加えて、Bさんに対する損害賠償も請求したいと考えたとしても、訴訟開始時に損害賠償請求が含まれていなければ、裁判所は損害賠償について判断することはできません。Aさんは改めて損害賠償請求の訴訟を提起する必要があるのです。
このように、訴訟物と判決は密接な関係にあります。訴訟開始時にどのような権利を主張するか、つまり訴訟物をどのように設定するかが、最終的にどのような判決を得られるかに大きく影響します。そのため、訴えを起こす際には、弁護士などの専門家に相談し、適切な訴訟物を設定することが非常に重要と言えるでしょう。そうすることで、望ましい判決を得られる可能性が高まり、紛争の適切な解決につながるのです。
