緊急避難:罪にならないための法的根拠

緊急避難:罪にならないための法的根拠

調査や法律を知りたい

先生、『緊急避難』って、他人を突き飛ばしても罪にならないんですよね? 例えば、車が突っ込んできたときに、とっさに他の人を突き飛ばして自分が助かった、みたいな場合です。

調査・法律研究家

そうですね、そういう場合も緊急避難にあたる可能性はあります。ただし、突き飛ばした人が軽い怪我ですんだのに対し、もし自分が轢かれていたら大怪我をしていた、というような場合は緊急避難が成立します。しかし、そうでない場合は罪になる可能性があります。

調査や法律を知りたい

なるほど。でも、とっさの出来事で、自分がどれくらい怪我をするか、他人がどれくらい怪我をするかなんて、判断できないですよね?

調査・法律研究家

その通りです。ですから、あくまで結果的に、自分が受けるはずだった害と、他人に与えてしまった害を比べて、後者が軽い場合に緊急避難が認められるのです。とはいえ、とっさの判断で、より軽い害になるように行動したと認められれば、緊急避難が成立する可能性は高くなります。

緊急避難とは。

今まさに迫っている危険を避けるため、他にどうしようもなく、やむを得ず他人の権利を侵害してしまうことを「緊急避難」といいます。このような場合は、罪にはなりません。たとえば、車が自分に突っ込んできたので、とっさに逃げるために他の人を突き飛ばしてしまい、その人に怪我をさせてしまった場合などです。ただし、「緊急避難」が認められるためには、その人にさせてしまった怪我の程度が、自分が受けるかもしれなかった被害よりも重くなってはいけないという条件があります。

緊急避難とは

緊急避難とは

緊急避難とは、今まさに迫り来る危険を避けるため、他に方法がないときに、やむを得ず他人の権利や財産を侵害してしまう行為のことを指します。通常であれば法律に反する行為であっても、特定の条件を満たせば、罪に問われないことがあります。

例を挙げましょう。もし道を歩いている時に、突然暴漢に襲われそうになったとします。とっさに近くに置いてあった花瓶を投げつけて、暴漢を撃退したとしましょう。この場合、花瓶の持ち主にとっては、自分の所有物が壊されたわけですから、器物損壊という罪にあたる可能性があります。

しかし、もし暴漢から身を守るために他に方法がなく、花瓶を投げる以外に自分の身を守る術がなかったとしたらどうでしょうか。この場合は、緊急避難が認められる可能性が高まります。つまり、自分の命を守るという差し迫った必要性から、やむを得ず他人の花瓶を壊してしまったという行為が、正当化されるのです。

これは、法律が人の命や身体の安全を何よりも大切に考えているからです。生命の危険という緊急の状況下では、他人の財産を侵害する行為はやむを得ないと考えられ、違法性が否定される、つまり、罪にならないと判断されるのです。

緊急避難が成立するためには、いくつか条件があります。まず、避けようのない差し迫った危険が存在しなければなりません。それから、その危険を避けるために他に方法がないという必要性と、侵害した権利や財産と守ろうとした権利や財産のバランス、つまりどちらがより重要かということも考慮されます。例えば、小さな傷を負うのを避けるため高価な宝石を盗んだ場合などは、緊急避難は認められません。

このように、緊急避難は、危機的状況におけるやむを得ない行為を法律で守るための重要な制度と言えるでしょう。

緊急避難とは

成立要件

成立要件

緊急避難とは、差し迫った危険を避けるため、やむを得ず他人の権利を侵害する行為を正当化するものです。しかし、無制限に認められるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。その成立要件を詳しく見ていきましょう。

第一に、緊急避難を行う際に避けるべき危険は、今まさに差し迫っていることが求められます。遠い将来に起こるかもしれない危険や、既に過ぎ去った危険に対して行った行為は、緊急避難には該当しません。例えば、数日後に大雨が予想されるからといって、他人の家の窓ガラスを割って侵入することは許されません。また、通り魔から襲われそうになり、身を守るために反撃した後に、既に逃走した通り魔を追いかけて危害を加えることも、緊急避難とは認められません。

第二に、他に合法な手段がないということも重要な要件です。危険を回避するために、他に方法があれば、そちらを選ぶ義務があります。例えば、暴漢から逃げる道があったにも関わらず、他人の家に侵入して隠れた場合、緊急避難は成立しません。近隣に助けを求めたり、安全な場所に避難したりするなど、他に取るべき手段があったはずです。緊急避難は、他に方法がない、まさに切羽詰まった状況でのみ認められるものです。

第三に、生じた損害と回避された損害のバランスも考慮されます。緊急避難によって生じた損害が、回避された損害よりも大きい場合、正当化されません。例えば、自分の腕時計を守るために、他人の高価な車を傷つけた場合、緊急避難は認められないでしょう。軽微な損害を避けるために、大きな損害を与えることは許されないのです。つまり、緊急避難は、より大きな損害を避けるために、やむを得ない範囲で小さな損害を与える行為でなければならないのです。これらの要件を満たす場合にのみ、緊急避難が成立し、違法性が阻却されます。

緊急避難の成立要件 説明
差し迫った危険 今まさに迫っている危険であること。将来の危険や過去の危険は該当しない。 数日後に大雨が予想されるからといって他人の家に侵入するのはNG。逃走した通り魔を追いかけて危害を加えるのもNG。
他に合法な手段がない 危険を回避する他に方法がないこと。 暴漢から逃げる道があったのに他人の家に侵入するのはNG。
損害のバランス 生じた損害が回避された損害よりも小さいこと。 腕時計を守るために他人の高価な車を傷つけるのはNG。

具体的な事例

具体的な事例

燃え盛る山火事から逃げるために、やむを得ず他人の畑を通った人の話をしましょう。炎は勢いを増し、逃げ道は畑しかありませんでした。畑を駆け抜ける際、当然作物は踏み荒らされてしまいます。普段であれば、これは器物損壊にあたります。しかし、この場合はどうでしょうか。燃え盛る炎から逃げるには、他に方法がありませんでした。まさに命に関わる差し迫った危険があったのです。このような場合、法律では「緊急避難」という考え方があり、罪に問われません。つまり、山火事という緊急の状況から逃れるため、やむを得ず他人の畑の作物を踏み荒らした行為は、違法ではないと判断されるのです。

もう一つ、別の例を見てみましょう。凶悪な強盗から逃げるため、とっさに他人の家の窓ガラスを割って、家に逃げ込んだとします。これも、普段であれば住居侵入や器物損壊にあたります。しかし、この場合も緊急避難が認められる可能性があります。ただし、緊急避難が認められるかどうかは、状況によって大きく変わります。例えば、窓ガラスを割らずとも他に逃げる道があった場合、あるいは、強盗の危険性と比べて窓ガラスを割ることによる損害が大きすぎる場合は、緊急避難とは認められません。つまり、強盗から逃げる必要性と、窓ガラスを割ることによって生じる損害を天秤にかけ、窓ガラスを割る以外に方法がなかったと判断される場合のみ、緊急避難が成立するのです。

このように、緊急避難は状況によって判断が非常に難しいものです。それぞれの状況を細かく丁寧に検討し、総合的に判断する必要があるのです。

状況 行為 通常の法的解釈 緊急避難の適用 備考
燃え盛る山火事から逃げるため 他人の畑の作物を踏み荒らす 器物損壊 適用される(罪に問われない) 命に関わる差し迫った危険からの避難
凶悪な強盗から逃げるため 他人の家の窓ガラスを割って家に逃げ込む 住居侵入、器物損壊 状況による(他に逃げる道があった場合は適用されない) 強盗の危険性と窓ガラスの損害を比較して判断

正当防衛との違い

正当防衛との違い

「正当防衛」と「緊急避難」、どちらも法律で認められた違法性阻却事由です。 つまり、本来であれば違法となる行為も、一定の条件を満たせば罪に問われないということです。しかし、この二つの制度は、守る対象が違います。

正当防衛は、不当な攻撃から自分や他人の権利を守るための行為です。誰かに殴られそうになったら、身を守るために反撃することは正当防衛にあたります。この場合、攻撃してくる相手への反撃が認められます。正当防衛が成立するためには、不当な侵害が存在すること、侵害が現在行われていること、そして防衛行為がその侵害を避けるために必要かつ相当なものであることといった条件が必要です。過剰な反撃は正当防衛とは認められません。

一方、緊急避難は、自然災害や事故といった緊急事態から生命、身体、財産といった法益を守るための行為です。例えば、大火事から逃げる際に、他人の家の塀を壊して避難した場合、これは緊急避難にあたります。この場合、必ずしも他人に攻撃されているわけではありません。 迫りくる危険から逃れるために、やむを得ず他人の財産を侵害したという状況です。緊急避難が成立するためには、今まさに危険が迫っていること、他に手段がないこと、そして避けるべき害が、侵害した法益よりも重大であることといった条件が必要です。例えば、小さな火事を消すために、高価な美術品を壊してしまうのは、緊急避難として認められない可能性があります。

このように、正当防衛と緊急避難は、どちらも「やむを得ない行為」を正当化するものですが、その目的と対象が異なります。正当防衛は不当な攻撃者への反撃を、緊急避難は緊急事態におけるやむを得ない侵害行為を正当化するものです。両者を正しく理解することが大切です。

項目 正当防衛 緊急避難
守る対象 自分や他人の権利 生命、身体、財産といった法益
行為の対象 攻撃してくる相手 必ずしも他人に攻撃されているわけではない
成立条件 不当な侵害が存在すること、侵害が現在行われていること、防衛行為がその侵害を避けるために必要かつ相当なものであること 今まさに危険が迫っていること、他に手段がないこと、避けるべき害が侵害した法益よりも重大であること
誰かに殴られそうになったら、身を守るために反撃する 大火事から逃げる際に、他人の家の塀を壊して避難する
行為の正当化 不当な攻撃者への反撃 緊急事態におけるやむを得ない侵害行為

責任能力との関係

責任能力との関係

非常時におけるやむを得ない行為、いわゆる緊急避難は、自分の行いの良し悪しや結果を理解し、自分の行動を制御できる能力、つまり責任能力を持つ人が行った場合に適用されます。この責任能力は、法律に基づいて判断される重要な要素です。例えば、火災現場から逃げる際に、他人の家の窓ガラスを割って侵入した場合、通常であれば器物損壊罪に問われますが、緊急避難が認められれば罪に問われません。これは、火災から逃げるという差し迫った状況において、やむを得ない行為であったと判断されるためです。

しかし、責任能力がない人が同様の行為を行った場合、緊急避難は適用されません。例えば、幼い子供や精神に障害のある人が、緊急事態だと認識できずに他人の財産を壊してしまった場合、彼らは自分の行為の意味や結果を理解する能力が不十分であると判断されるため、緊急避難は適用されません。つまり、責任能力の有無が、緊急避難の成否を分ける重要なポイントとなります。

責任能力がない人が行った行為は、違法となることもありますが、責任能力がないことから罪に問われることはありません。ただし、責任能力がない人であっても、その人を監督する義務のある保護者や監督者には、監督責任が問われる可能性があります。例えば、子供が他人の家の窓ガラスを割ってしまった場合、子供自身は罪に問われませんが、親が子供の監督を怠っていたと判断されれば、親に賠償責任が生じる可能性があります。

緊急避難は、あくまでも責任能力のある人が緊急事態において行った行為に対して適用される制度です。責任能力がない場合は、緊急避難とは別の法律の枠組みで判断されます。責任能力の有無によって適用される法律が異なるため、それぞれの状況に応じて適切な判断が下されることになります。状況に応じて責任能力の有無を慎重に見極める必要があると言えるでしょう。

行為者 責任能力 緊急避難の適用 罪に問われるか 監督責任
責任能力のある人 あり 適用される(例: 火災現場からの脱出) 問われない
責任能力のない人 (例: 幼児, 精神障害者) なし 適用されない 問われない 保護者/監督者に責任が生じる可能性あり