履行不能で損害賠償？責任とは

履行不能で損害賠償？責任とは

履行不能とは

約束事を果たせなくなることを「履行不能」と言います。当事者の一方が、不可抗力などの自分ではどうにもならない事情で約束を守れなくなった時に、この言葉が使われます。例えば、職人に特別な棚の製作を依頼したとしましょう。契約通りに棚を作ってもらう約束は有効に成立しています。ところが、職人の工房が火事に見舞われ、棚の材料も完成品も全て焼失してしまいました。この場合、職人はあなたに棚を引き渡すという約束を果たすことができなくなります。このような状況がまさに履行不能です。

履行不能は、予期せぬ出来事によって約束が果たせなくなった場合にのみ認められます。単に当事者の一方に非があるだけでは、履行不能とは認められません。例えば、職人がやる気を失くした、他の仕事が忙しくなったといった個人的な事情で棚を作らなかったとします。このような場合は、職人に責任があるため、履行不能とはなりません。職人は、棚を作らなかったことに対する責任を負わなければなりません。あるいは、職人が材料を仕入れる店が倒産し、棚を作れなくなった場合でも、履行不能とはみなされない可能性があります。他の店を探したり、別の材料で代用したりするなど、職人が努力すれば棚を作れたかもしれないからです。本当に不可抗力と言えるのかどうか、つまり、どうにもできない事情だったのかどうかが重要なポイントです。

不可抗力とは、当事者の誰の責任でもない、予見できなかった出来事を指します。地震、台風、火災、洪水といった自然災害や、戦争、暴動といった社会的な事件などが典型的な例です。また、新型の感染症の大流行といった、誰も予測できなかった社会情勢の変化も不可抗力とみなされる可能性があります。ただし、感染症の流行であっても、必要な予防措置を怠っていた場合には、不可抗力とは認められないこともあります。重要なのは、当事者がどれだけ注意を払っていても避けられない出来事だったのかどうかという点です。

責任の所在

約束が果たせなくなった時、責任は誰にあるのでしょうか？例えば、職人に本棚の作成を依頼したとします。ところが、工房が火事になり、本棚は完成しませんでした。この場合、職人は損害賠償責任を負う可能性があります。しかし、必ずしも職人が賠償しなければならないわけではありません。

ここで重要なのは、約束が果たせなくなった原因です。もし、火事が職人の不注意、例えば火の元の管理を怠っていたことが原因であれば、職人は責任を負い、損害を賠償しなければなりません。うっかりライターを落としてしまい、それが火事の原因となったならば、職人に責任があることは明白です。

一方、火事が職人の落ち度によらない、防ぎようのない出来事によるものだった場合はどうでしょうか？例えば、近隣の建物からのもらい火や、放火による火災など、職人がどれだけ注意していても避けられない場合です。このような不可抗力によって本棚が完成しなかった場合、職人は損害賠償責任を負いません。

つまり、約束を守れなかった人に責任がない場合、その人は損害賠償する必要はないのです。これは、責任のない人にまで責任を負わせることは不公平だという考えに基づいています。もし、職人がきちんと火の元の管理をしていたにも関わらず、予測できない出来事が原因で本棚を作れなくなってしまった場合、職人に責任を負わせることは理にかなっていないと言えるでしょう。

債権者の立場

約束が守られなかった時、つまり債権者はどのような立場になるのでしょうか。約束が果たせなくなると、債権者は本来受け取るはずだったもの、例えば棚を受け取ることができなくなります。もし既に棚の代金を支払っていた場合は、そのお金も返ってこないかもしれません。これは大きな損失です。

しかし、債務者に責任がある場合は、債権者は損害賠償を請求することができます。棚の例で説明すると、職人が火事の原因となる不注意な行動をしていた場合、あなたは棚の代金だけでなく、棚が手に入らなかったことで発生した損失についても賠償を求めることができます。

具体的に請求できるものとしては、新しい棚を作るための費用が挙げられます。元の棚と同じような棚を作るために必要な材料費や職人への手間賃などを請求することで、あなたは改めて棚を手に入れることができます。また、棚がなかったために発生した不便さに対するお金、例えば棚にしまっておくはずだったものが保管できずに傷んでしまった場合の弁償なども請求できる可能性があります。

損害賠償の範囲は、債務者の責任の程度や、債権者が被った損害の大きさによって異なります。そのため、どの程度の賠償が認められるかは、個々の状況によって判断されます。もし、あなたが債権者として損害賠償を請求する場合、裁判所は、債務者の責任の程度、債権者が受けた損害の程度、そして両者の間の因果関係などを考慮して、適切な賠償額を決定します。

債権者として、自分の権利を守るためには、約束の内容を明確にしておくこと、そして債務不履行が発生した場合には、適切な手段を講じることが重要です。専門家、例えば弁護士などに相談することも有効な手段の一つです。専門家の助言を受けることで、あなたの権利を最大限に守ることができます。

契約解除という選択肢

{約束が果たせなくなった時、契約をなかったことにできる}契約解除という手段があります。これは、例えば職人に棚の製作を依頼したのに、職人が病気や怪我で製作できなくなった場合などに使える有力な方法です。契約解除を行うと、元々交わした約束事はなかったものと見なされ、棚の製作依頼も、それに伴う支払い義務もなくなります。

具体的に棚の例で見てみましょう。あなたが職人に棚の製作を依頼し、前払金を支払ったとします。しかし、職人が病気で製作を続けられなくなったとします。この場合、あなたは契約を解除することで、支払ったお金を職人から返してもらう権利が発生します。さらに、他の職人に改めて棚の製作を依頼することも可能になります。

契約解除は、相手方に責任がある場合に限らず利用できる点が重要です。例えば、職人の工房が火災で焼失し、棚の製作が不可能になったとします。火災は職人の責任ではない、いわゆる不可抗力によるものですが、それでもあなたは契約を解除できます。そして、他の方法で棚を手に入れることができるのです。

このように、契約解除は色々な事情で契約が履行できなくなった際に、あなたの権利を守り、柔軟な対応を可能にする強力な手段です。ただし、解除は一方的にできるものではなく、相手方への通知が必要となる場合もあります。また、損害賠償請求と契約解除は別の手続きです。損害が発生している場合は、契約解除に加えて、別途損害賠償を請求する必要があります。具体的な手続きについては、専門家への相談をおすすめします。

事前の対策

約束を果たせなくなる危険を減らすには、前もって準備をすることが大切です。 契約を交わす段階で、どんなことが起こったら約束が果たせなくなるのか、その時は誰がどんな責任を持つのかをはっきりさせておく必要があります。

例えば、地震や洪水といった自分たちの力ではどうにもならない出来事で約束が果たせなくなった場合に備えて、損害の埋め合わせの範囲や契約をなかったことにする方法などを契約書に書いておけば、後で揉めることを防げます。

また、大きな金額の取引の場合は、保険に入っておくなどして、何かあった時に備えておくことも大切です。 特に、土地や建物の売買や、建物の工事といった大きな契約では、約束が果たせなくなった時の損害が大きくなることがあるので、前もってしっかり準備しておく必要があります。

契約書には、起こりうる問題を具体的に書いておくことが重要です。例えば、「大雨で工事が遅れたらどうするか」「材料が手に入らなくなったらどうするか」といった具体的な例を挙げて、それぞれの責任の所在や対応策を明確にしておくことで、後々のトラブルを避けることができます。また、契約相手とよく話し合い、お互いの考えを理解しておくことも重要です。

さらに、契約の内容によっては、専門家に相談することも考えてみましょう。弁護士や税理士などに相談することで、契約上のリスクを把握し、適切な対策を立てることができます。専門家の助言を得ることで、より安全な契約を結ぶことが可能になります。

前もってしっかりと準備をすることで、約束を果たせなくなることによる損害を最小限に抑え、安心して取引を進めることができます。 契約は、お互いの信頼関係に基づいて成り立つものです。事前の対策を怠らず、良好な関係を築くようにしましょう。